1.透過電子顕微鏡の試料支持用グリッドについて

1-1 グリッドの一般知識

1.グリッドの用途
 ・グリッド表面に直に試料を支持する ⇒ 主に超薄切片試料や薄膜試料に適用。
 ・グリッド表面に各種試料支持膜を貼付しその上に試料を支持する ⇒ 主に紛体、微粒体、超薄切片、薄膜試料に適用。
 ・グリッド表面にマイクログリッド゙を貼付しその上に試料を支持する ⇒ 主に微粒体、針状試料、板状試料、超薄切片、薄膜試料に適用。
 ・グリッド表面にマイクログリッド゙を貼付しその上に更に薄い支持膜を貼付し、その上に試料を支持する ⇒ 主に微粒子や微結晶試料に適用。

2.グリッドの大きさ
 ・世界標準=1/8インチ≒3.18mm
 ・3.0mmΦグリッド ⇒ 一般の市販グリッドの直径は約3.0mmで供給されています。
 ・2.3mmΦ ⇒ 一部の高分解能小孔径ポールピース用として供給されていたことがあります。

3.グリッドの厚さ
 ・グリッドは全て同じ厚さで製作されているのではなく、素材や孔サイズなどに応じておよそ5~50μmの範囲内の適切な厚さで作られています。

4.グリッドの孔形状
 ・四角、六角、丸、楕円、長方形等の各種形状を持つ様々なグリッドが供給されています。

5.観察可能範囲
 ・3mmΦグリッドを標準試料ホルダーにセットした場合、一般にグリッド中央部約2mmΦがTEM観察可能な領域となります。

6.グリッドの素材
 ・Cu、Mo、Ti、Ni、Al、Au、SUS、ナイロン等の各種素材のグリッドが供給されています。

7.代表的な金属グリッド(メッシュ)の製造方法

  グリッド
板厚
(μm)
材 質 孔形状 開口率 表面の
フラット性
支持膜貼付の
容易性
取り扱いの
容易性

片面エッチング法

5~40 Cu,Ni,Ti,Mo 丸孔

加工精度
不良
孔縁に段差なく、表面のフラット性は良好 表面がフラットなためグリッド全面に渡り平滑に支持膜を貼付することが容易 固く変形しにくいため、取り扱いは容易
両面エッチング法
(表裏不均等)
5~30 Cu,Ni,Ti,Mo 四角孔
六角孔

加工精度
やや良好
孔縁に若干の段差があり表面のフラット性はやや不良 表面に若干の段差があり、板厚が薄いため全面に渡って平滑に支持膜を貼付することはやや困難 柔らかく変形しやすいため、取り扱いは困難
両面エッチング法
(表裏均等)
5~30 Cu,Ni,Ti,Mo 四角孔
六角孔

加工精度
良好
孔縁に大きな段差があり表面のフラット性は不良 表面(孔の縁)に若干の段差があり、全面に平滑に支持膜を貼付することは困難 柔らかく変形しやすいため、取り扱いは困難
電鋳法
(メッキ法)
3~15 Cu,Au,Al,Ni,Pt 四角孔
六角孔

加工精度
大変良好
孔縁に若干のダレがあり表面のフラット性は不良 表面に若干の段差があり、板厚が薄いため全面に渡って平滑に支持膜を貼付することは困難 柔らかく変形しやすいため、取り扱いは困難

8.グリッド製造方法の違いによる支持膜貼付状態の違い
 ・片面エッチング法で作製したグリッドに支持された薄膜の状態

・開口部の縁の形状:逆すり鉢型
・開口部面積:表面(薄膜支持側)<裏面
・薄膜の支持状態:フラットに貼れます。

 ・両面エッチング法( 表裏不均等)で作製したグリッドに支持された薄膜の状態

・開口部の縁の形状:表面(薄膜支持側)は浅いすり鉢型
・グリッドバー中央部の出っ張り:小さい
・薄膜の支持状態:フラットに貼ることはやや困難ですが可能です。

 ・ 両面エッチング法(表裏均等)で作製したグリッドに支持された薄膜の状態

・開口部の縁の形状:表面(薄膜支持側)はすり鉢型
・グリッドバー中央部の出っ張り:大きい
・薄膜の支持状態:フラットに貼ることは困難です。

 ・電鋳法(メッキ法)で作製したグリッドに支持された薄膜の状態

・開口部の縁の形状:表面(薄膜支持側)はすり鉢型
・グリッドバー中央部の出っ張り:大きい
・薄膜の支持状態:フラットに貼ることは困難です。

1-2 ステムのミクロンピッチグリッドの特徴

1.グリッドの呼称に孔中央間距離(ピッチ:MKS単位系(μm単位))を用いています。
  ※例:Cu150Pは、150μmのピッチを持つ銅製グリッドを表します。

2.グリッド孔の間隔が50、75、100、150、200、300μm等のきりの良い単位(MKS系)で示されていますので、観察中の試料移動距離の
  把握が容易です。

3.Vカットと丸孔が加工されていますので、グリッド表裏の判別が容易であり、支持膜/マイクログリッドの貼付面確認に役立ちます。
  Vカットと丸孔が上の写真に示す配置に見える面がミクロンピッチグリッドの表面です。
  ※マイクログリッドや試料支持膜はミクロンピッチグリッドの表面に貼付します。

4.Vカットと丸孔が加工されていますので、グリッド再観察時において試料ホルダーにグリッドを装填する際の方位再現性が高まります。

5.Vカットと丸孔が加工されていますので、グリッド方位を試料傾斜軸に合わせることが容易です。

1-3 ピッチ数表示グリッドとメッシュ数表示グリッドの比較と換算

1.弊社では、使い易さを追求したミクロンピッチグリッド(ピッチ数表示;**P)を製造し、主に自社製の支持膜やマイクログリッド等の
  支持体として利用しています。

2.私たちはMKS/CGS単位系の表示に慣れ親しんでいますので、インチ単位を基本とした従来のメッシュ数表示(**M)のグリッドでは、
  表示値を見ても、孔間隔や孔サイズがすぐにはわかりづらいと思います。

3.ステムのミクロンピッチグリッドはグリッド孔中央間距離をμm単位で表示しているため、グリッドの孔間隔・孔サイズが大変わかりやすく
  なっています。

4.ミクロンピッチグリッドの孔間隔は、これまでのメッシュ数表示グリッドで慣れていた印象と異なり、表示ピッチ数の数字が小さいほど細かく、
  数字が大きいほど粗くなります。

5.ミクロンピッチグリッドのようにピッチ数表示を持つグリッドが、使い易いグリッド(メッシュ)として幅広くご利用していただけることを
  期待しています。

6.下表にピッチ数とメッシュ数の換算を示しますので、参考にしていただければと思います。

  ピッチ数表示グリッドとメッシュ数表示グリッドの換算表
  青字ステムで現在製造販売されているのミクロンピッチグリッドの表示値(**P)です。
  黒字:一般に製造販売されているグリッドのメッシュ数表示値(**M)
  赤字:現在製造・販売されていないグリッドです。

ピッチ数表示グリッド
グリッド孔中央間距離(μm)
メッシュ数表示グリッド
1インチ(25.4mm)当たりの孔数
50P 500M
64P 400M
75P 340M
85P 300M
100P 250M
130P 200M
134P 180M
150P 170M
170P 150M
200P 130M
250P 100M
300P 85M
318P 80M
339P 75M
500P 50M

1-4 使用目的によるグリッドの選び方

・下表はグリッド選択時に考慮すべき一般的な項目を示しています。
・グリッドの素材や厚さによっては柔らかすぎて取扱いが困難になるものもありますのでご注意ください。

  グリッド材質 厚 さ
(注1)
孔径
(注2)
開口率
(注3)
備   考
高分解能観察用 Cu 、Mo 厚、中 中、低 支持膜のドリフトが生じにくいグリッドを選択します。
一般観察用 Cu 観察倍率に応じて使いやすいグリッドを選択します。
広視野観察用 Cu 超高、高 桟が細く、孔径の大きい、高開口率のグリッドを選択します。
試料傾斜観察用 Cu 大、中 超高、高 傾斜軸と垂直な方向に長い長方形孔を持つグリッドを選択します。
元素分析用 Cu、Mo、Ni、Al、 Ti、Au、Pt 高、中 分析対象元素以外の素材で作られたグリッドを選択します。
試料加熱用 Mo、Pt 耐熱性の高い素材で作られたグリッドを選択します。
試料冷却用 Cu、Au、Al 熱伝導性の高い素材で作られたグリッドを選択します。

   (注1)厚さの目安・・・厚: 30μm以上、中: 15~30μm、薄: 3~15μm
   (注2)孔径の目安・・・大: 100μmΦ以上、中: 50~100μmΦ、小: 20~50μmΦ
   (注3)開口率の目安・・超高:80%以上、高: 60%以上、中: 40~60%、低: 40%以下